江戸川乱歩『人でなしの恋』(創元推理文庫)

ジャンル的にはホラーになるらしい。恥ずかしながら、小生ホラーと称されるものが苦手である。怖いものは嫌いだ。怖いから。

乱歩のこの作品は、文章がとても美しかった。平凡な表現をするなら、耽美的というのだろうか。

耽美的で退廃的。そして、刹那的なのだ。

男の持つ秘密とは何か。

男が秘密を持っているのではないかという疑惑がまず描かれる。女がその謎に迫る様子が淡々と美しい文章で綴られているのである。美しい文章とは、それだけでどこか薄ら寒く感じさせるものなのだ。女に自分が追い詰められていくような緊迫感。読者である小生が、知ってはならないこと、知らずにおいてやりたことを知らされてしまう罪悪感。

幽霊が出てくるわけでもない。見えない殺人鬼に命を狙われるわけでもない。怪奇現象が起こるわけでもない。

ただ、怪しげな行動を繰り返す男の秘密の恋が暴かれるだけである。それなのに、やはりこの物語はホラーだ。陳腐な表現ではあるが、美しいホラーだ。

いや、しかし。

正直、そのオチはどうよ。

確かに、人で「なし」の恋ではあるけれども。

と、小生は思った次第である。

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