司馬遼太郎『竜馬がゆく』(文春文庫/全8巻)――街道は晴れている。竜馬がゆく。この小説の最終盤に出てくるこの一文に出会ったとき、ああ司馬先生はこれが描きたかったが故に、この青年の物語を描いたのだな、と思った。読み返すたび、この一文を、それこそスルメのように噛み締めている。 若かりし頃、初めて読んでから幾度となく読み返した小生にとってのカンフル剤のような小説が、司馬遼太郎『竜馬がゆく』である。坂本竜馬はもちろん、勝海舟、高杉晋作、来島又兵衛、中岡慎太郎、小説的には敵方でもある吉田東洋、と小生が魅力を感じた人物は数知れす。・・・お気付きの方もおられるかと思うが、小生、薩摩は好かん。どうも、立ち回りの巧さというのか、外交の卒のなさといえばいいのか。「いけ好かない」という奴だ。ただ、...24Jun2020A
坂口安吾『堕落論』(新潮社文庫刊) 最初に手にしたのは、いわゆる「お年頃」の我ながら面倒臭いヤツだった時代だ。とにかく何でも小難しく考え、本屋でもなるべく難解そうなものを手に取り、わかったような気になりながら読み漁っていた頃に、この本に出会ったのだと記憶する。 人は生き、人は堕ちる。 正直、これしか覚えてない。初めて読んでから、何度か読み返しているはずなのに、ここしか覚えていないのだ。そして、これを覚えているだけで、この本のすべてをわかっている気になっている。・・・今も。ちなみに小生が所有するこの本は、それなりにくたびれている。覚えてないのにも関わらず、だ。 心の洗濯を気取ってひとり旅に出る際は必ずこの本を鞄に入れる。異国の地で、昼間からビールを呑みながら読む『堕落...24Jun2020A
山本周五郎『さぶ』(新潮文庫刊) 山本周五郎賞なるものがある。この賞を受賞した作品は、何作か読んでいるのだが、いかんせん「山本周五郎」の作品を読んだことがないな、と気付いた若き日の小生は、古本屋にて『さぶ』を購入した。ただ、作品名を聞いたことがある、というだけの理由だ。 結論から言うと、さすがに面白かった。ただの友情モノと言ってしまえばそれまでなのだが、ひとの心の機微、というヤツなのか、「美しいな」と思った気がする。ただ、正直に告白すると「さぶ」という作品名から、いわゆるそっち系の話かと思っていた。主人公の二人が、いつか間違い(というのか?)を犯すのではないかと途中まで思いながら読んでいたのだ。墓場まで持っていきたい恥ずかしい秘密である。 そういえば、直木賞受賞作...24Jun2020A
太宰治『斜陽』(新潮文庫) 文豪の作品は、とりあえず読まねばならない。当然のようにそう思っていた若かりし頃、『斜陽』を手にした。 読書をする際、登場人物の誰かしら(作者も含む)に自己投影しながら読む派なのだが、正直、誰にも自己投影できず、共感もできなかった。たとえば「おかあさま」の言動、「私」の主観、「弟」の憤り…。正直に吐露するなら「はぁ、さようでございますか」である。「なんだか大変だな」と。 生きるとは、社会とは、大人とは、などと青臭いことを小難しく考えがちだった頃の小生にして、この一冊は、「まあ、そないに小難しく考えなくても…」と言わしめる作品だったと思う。よくわからないが、それが太宰作品の良さ、なのだろう。 幕末が舞台の時代小説が好きな小生は、武士の...24Jun2020A
谷崎潤一郎『痴人の愛』(新潮社文庫刊) ひたすら気持ち悪かった。 ある意味で印象深すぎる作品である。 そもそも「ナオミ」の魅力がわからない。大の大人が振り回されているのもわからない。さらに、それを喜んでいるのが気持ち悪い。 何度も投げ出しそうになりながら、それでもこの男はどうなっていくんだと読み進めることができた。最後の10頁くらいは、比喩でなく、大げさでなく声に出して「気持ちが悪い」と言いながら読んだことを覚えている。 何度も言う。 ひたすら気持ちが悪い。 その感想は変わらないが、ただやはり谷崎潤一郎は凄いと思う。こんなに生々しく、心底気持ち悪いと思わせる作品が生み出せるのだ。その筆力は圧倒的だと、小生は思う。良い意味で本物の変態なのではないか、と。薄っぺらい上辺だ...24Jun2020A
江戸川乱歩『人でなしの恋』(創元推理文庫)ジャンル的にはホラーになるらしい。恥ずかしながら、小生ホラーと称されるものが苦手である。怖いものは嫌いだ。怖いから。 乱歩のこの作品は、文章がとても美しかった。平凡な表現をするなら、耽美的というのだろうか。耽美的で退廃的。そして、刹那的なのだ。男の持つ秘密とは何か。男が秘密を持っているのではないかという疑惑がまず描かれる。女がその謎に迫る様子が淡々と美しい文章で綴られているのである。美しい文章とは、それだけでどこか薄ら寒く感じさせるものなのだ。女に自分が追い詰められていくような緊迫感。読者である小生が、知ってはならないこと、知らずにおいてやりたことを知らされてしまう罪悪感。幽霊が出てくるわけでもない。見えない殺人鬼に命を狙われるわ...24Jun2020A
初めての”九州車中泊の旅”初めての”九州車中泊の旅”の道中、大分県は[道の駅 佐賀関]で車中泊をした翌朝。大阪ナンバーが珍しかったのか犬を散歩中のおじさんに声を掛けられた。コーヒー片手に話し込むうちに、近所でリサイクルショップを経営されているとのこと。これも何かの縁とばかりに、おじさんに住所を教えてもらい、辿り着いたのは[リサイクル オレンジ]。九州に多い、なかなかの倉庫系のリサイクルショップだ。その際に立派なキリムを格安で手に入れたことと、おじさんの人柄にひかれ、翌年、再訪したときに購入したものが写真のアイテムだ。フラワームーブメント全盛の60年代後半~70年代の米モノに見えなくもない、この美人姉妹の佇まいに惹かれ購入を即決。確か値段は一体2,000円程度...24Jun2020B